歩く

 

歩く時の推進力がやたらと高い時がある。

体が軽く感じるのではなく、脚力が異常についた感覚。

ふくらはぎのあたりに力がみなぎっていて、地面を蹴るとかなりのスピードで体が前に押し出される。

瞬く間に景色が過ぎ去って行き、風を切って歩くような感じがしてとても気持ちがいい。

ヒールを履いていようが関係なく、とても正しい歩き方ができていると感じる。

 

私が学んだフットケアのスクールでは、歩くだけで体の歪みが整うという理論を掲げていた。

理論上はそうかもしれないけど……と、所詮は机上の空論という気持ちが少なからずあったのだが、これだけ気持ちよく歩けるとまんざらでもない気がしてしまう。

 

スクールで学んだ「正しい歩き方」を意識してみると、ふくらはぎがしっかり伸びてお腹とお尻の筋肉をしっかり使って足首を柔らかく使って……と、ストレッチや筋トレをしている感覚になる。

 

しかもこれが苦痛じゃない。

 

体は使うべきところをしっかり使っているが運動量としてはただ歩いているだけなので、5分や10分くらいではそう疲れない。

景色はぐんぐん変わっていくので飽きないし、風は気持ちがいい。

季節や日によって空気の匂いも楽しめる。

外なのでいろんな音に溢れていて、気になる耳を澄ましてみるのも楽しい。

 

なるほど、これは体も心も整うわけだ。

すっかり納得してしまった。

欲を言えば裸足で土の上を歩けたら最高に気持ちがいいだろう。

毎日続けたら不健康でいるほうが逆に難しい。

 

 

とはいえ毎回その気持ちよさを味わえるわけでもない。

どんなに意識してもふくらはぎが伸びなかったり、足が前に出なかったり、どんなに大股で歩いてもなかなか前に進んでいかない感覚に陥ることもある。

 

疲れていると……というわけでもなさそうだ。

今日は体が軽くて調子が良いぞと思ったのにうまく歩けない、ということもある。

 

なんとなくだが、心の状態に左右される気がする。

穏やかで落ち着いていて、なおかつ心が満たされていて幸せを感じている時は最高に気持ちよく歩ける。

楽しいことや嬉しいことがあって浮かれている時も歩きやすい。体がどんどん前に進む。

イライラしている時はそのイライラ度に比例して前に進む力が増えていく気がする。

イライラすればするほどズンズン前に進んでいける。

イライラがエネルギーになっているのだろうか。

落ち込んでいる時は当然歩きにくい。

せめて歩き方だけでも元気を出そうと思っても、体がうまく動いてくれなくなる。

それから他のことに気を取られている時もうまく歩けないことが多い気がする。

「さっきあの人機嫌悪かったな。何か気に触ることしたかな」とか「明日はアレを絶対忘れちゃいけないから帰ったらすぐ準備しなきゃ」とか。

なんとなく気持ちがソワソワしている時は自分がお留守になっていて、体もきちんと動かなくなる。

 

心と体はここまで繋がっているのかと思うと、少し面白い。